vol.6 気象予報士 斎藤恭紀さん

平成17年11月15日(火)
13:00~14:30
東北放送本社内
聞き手:丹野靖子(仙台市建設局広瀬川創生室)

『広瀬川フェスタ・シンポジウム(10月2日)記念講演の感想』

●聞き手

当日は斎藤さんを目当てに来られるお客さんもいらっしゃって、子どもも大人も楽しめるおもしろいお話でした。この講演の依頼があった時のエピソードを教えていただけますか。

●斎藤さん

正直言って、広瀬川と気象で1時間しゃべれるだろうかと思ったんですけど、意外や意外、調べてみると広瀬川と気象の関わりとか、広瀬川の持つ意味、自然とか産業も含めて、いろんなものが出てきてすごく楽しかったですし、改めて、広瀬川に自然がたくさん残っていて、雨水を海のほうに流してブナの栄養のある水を川に送ることで植生も生物も恩恵を受けてるとわかった。そういう意味で非常に有意義な準備期間を過ごせたと思います。仙台に住んで仕事していく上ですごく重要な知識の蓄積につながったかなと思います。

●聞き手

お客さんの反応、反響などはいかがでしたか。

●斎藤さん

やはり勉強になったとか、ためになったとか。私があの講演でやろうと思っていたのは、うちに帰ってお父さんやお母さん、奥さんや旦那さんに「広瀬川ってこんな事があるんだよ、知ってた?」「へえー」とか、そういう会話のネタになるような話を持っていって、一つでも広瀬川の新たな発見をしてくれれば、川に近づければいいな、ということだったんですけどね。それが一部の人には伝わったかなと思います。

『気象予報士から見た広瀬川』

●聞き手

講演では、気象予報士として専門的なお話も交えながらかみくだいてお話いただきましたが、その中でヒートアイランドと広瀬川の関係というお話がありました。広瀬川は仙台の気象にどのような影響を与えているのでしょうか。

●斎藤さん

まず、今、都市の温暖化がすごく進んでいます。仙台では100年前に比べると2度近く気温が上がってるんですね。100年前は盛岡と同じ気温だったんですよ。これは都市の廃熱やアスファルト化によるもので、地面が少ないので水の蒸発が少なくなって湿度も下がってるんですよね。都市が温暖化・乾燥化しているという事です。ある冬の日の同時刻に仙台市内のあらゆる地点で気温を測ったら、一番気温が低かったのが西公園ですよ。これは青葉山や西公園の緑の蒸散が多いのと、広瀬川が川に乗せて冷たい空気を川沿いに運んでいるから。そういう意味では川は都市の温暖化を和らげてくれる効果があるという事ですよね。
山の方にはたくさんブナ林がありますけど、そこに降った雨が広瀬川に流れ込むことでたくさんの栄養を山から海に運ぶ。それで川沿いの植生とか海の生物とかがある程度維持される。そういうことも広瀬川はやっていると思います。
それから、日本で初めてフィギュアスケートの全国大会が開かれたのは、広瀬川の大橋の下。昔はフィギュアスケートができるほどカチンカチンに凍ってた。ところが今では、広瀬川が凍ることはありますけど昔の写真のようにフィギュアスケートを楽しむ事はもうほとんどできませんよね。広瀬川を通して地球温暖化、都市の温暖化がわかりますよね。

●聞き手

地球温暖化が進むと広瀬川にどのような影響があると思われますか。

●斎藤さん

まず植生が変わりますよね。東北大学植物園の園長先生が言っていたのは、南国の木が自生できるようになっちゃったと。あとここ数年冬の雪の量が少なくなってますよね。だから、広瀬川の上流でニホンザルの数が増えて分派して松島でも農作物の食害を増やしている。広瀬川周辺の動植物への影響は、これからも増えていくんじゃないかなと思いますけどね。

●聞き手

昨年は新潟豪雨がありましたし、台風も非常に多かった。たまたま仙台市では被害は少なかったですが、これもやはり温暖化の影響と思っていいのですか。

●斎藤さん

気温が上がれば上がるほど空気に含まれる水蒸気量は多くなるので、地球温暖化に向かうとやはり集中豪雨の機会が多くなる。1時間に100mm以上の、下水処理能力を超えるような雨が実際増えているんですよ。ここ最近仙台周辺はたまたま大雨はなかったんですけど、今後いつそういう集中豪雨に遭ってもおかしくなくなってきている。

●聞き手

東京や名古屋でヒートアイランドに起因した大都市部の集中豪雨がありましたよね。その兆候は仙台でも見られますか。

●斎藤さん

仙台ではないですけど、十分ありうることだと思うんですよね。都市の温暖化の調査をした本を見たんですけれど、ちょうど仙台だけ気温が局地的に高いんですよ。あったかい所はまわりよりも空気が軽くなるので上昇気流が発生する。そうするとそこで低気圧が起きる、雲が湧く、そして強い雨を降らせる。それで、局地的な低気圧とか雷雨が、特に都市部で多くなっちゃうんですよ。気温差が大きければ大きいほど発達した局地的な低気圧ができやすくなる。それが東京では実際すでに起きてますし、仙台で大雨が降りやすくなることは理論的には考えられるんじゃないですかね。
広瀬川や広瀬川周辺の緑を守ること、それから広瀬川周辺だけじゃなくて仙台の街中でも緑化推進を条例化してますよね。これをしっかりやっていかないと、都市の温暖化が顕著になって、ヒートアイランドとかドライアイランドとか、局地効果がさらに悪くなるんじゃないでしょうかね。
もう一つ言えるのは、最近は海水温が上がってるんですよね。台風は今までは宮城の前で型崩れしちゃって衰弱台風ばっかりだったけれども、この後大型化してくる可能性はある。ヒートアイランドによる集中豪雨もありますけども、今までにないような大型台風による災害、増えてくるのかなあという気はしますよね。だから川との付き合い方って本当に難しくなってくるんですよね。自然を思わなきゃいけない、一方で暴れ川を鎮めなければいけない。行政の方はその辺の難しい舵取りを迫られてしまうのかな。

●聞き手

幅広い方から関心を持っていただくということからですよね。必ずしも楽しい美しいばかりではなく、そういう姿もあるということも知っていただかないと難しいですよね。

●斎藤さん

自然との共生って難しいですよね。本当に自然と人間が対等に向き合わなくてはいけないけれど、われわれ人間も生活があるわけで。

●聞き手

ところで、気象学から見ても、川と気象の影響は何か言われているのですか。

●斎藤さん

そういうのはほとんどないですよね。気象予報士の試験は結構マクロ的な知識が多くて、局地気象をほとんど学ばなくてもわかるんです。でも地域に気象予報士が入っていくのであれば、単に天気予報を出すだけじゃなくて気象がどのように環境に影響を与えているか、という知識が重要になってくると思います。

●聞き手

宮城県の気象についても、東部西部だけで分けられるのかという疑問がありますよね。

●斎藤さん

気象は本当に細かく変化するものですから。たとえばグライダーに乗ってると、砂地よりも松林の上で上昇気流が強かったり、夏場水田の上だと上昇気流が強かったり、場所によって全然気流の流れが違うんですよね。そういう意味では広瀬川の仙台市内の空気への影響は大きいと思うんですよね。芋煮なんかしていると河原は結構寒いですよね。あと、川に沿って風が吹いて来たりとか、川があるから夏の暑さをしのげたりとか。それくらい空気を冷やす効果がありますよね。
広瀬川の温暖化を抑止する効果って、広瀬川のまわりの森も含めて結構あると思うんですけどね。広瀬川がどれだけ温暖化を抑止する効果があるのか一度調べたいですね。