『映画「アヒルと鴨のコインロッカー」について』

●聞き手

今度5月に公開予定の「アヒルと鴨のコインロッカー」という映画を、もうご覧になったと思いますが、ご感想や見所がありましたら教えてください。

●伊坂さん

これは本当にいい映画で、僕の原作というのを本当に抜きにして、とても好きな映画ですよ。妻も見ると言うのでビデオをもらいましたが、毎日見る時もあるくらいです。ユーモアがあって間が面白いですよ。傑作だと僕は思っています。
『アヒルと鴨のコインロッカー』は読者を驚かせるトリックがあるので、どうそれを映画化するのかという点に興味が集中していますが、それは小さなことで、空気感ややりとりのばかばかしさ、真相がわかった時の切なさが、そのまま映画にも生かされています。

●聞き手

ご自分の学生時代とだぶらせたところもありますか。

●伊坂さん

『アヒルと鴨のコインロッカー』は、関東から引っ越してきて入学してから数日間の話なので、知らない街に来た時の不安感がそのまま出ていますね。

●聞き手

小説によく映画の話が出てきますが、影響を受けた、あるいは好きな映画はありますか。

●伊坂さん

たくさんあります。フランスのジャン=ジャック・べネックスという監督の『IP5/愛を探す旅人たち』という映画は、映像もきれいなのですが観た時に色々なことを考えさせられて、ずっと印象に残っています。たぶん影響も受けています。
レオス・カラックスという、やはりフランスの映画監督やスピルバーグの作品を見ると、「自分もがんばらないと」と思うことが多いですね。

●聞き手

自分の作品が映画化されて、原作と映画のギャップを感じたり新たな発見をしたりすることはありますか。

●伊坂さん

映画と小説は別物ですが、残念なことに僕自身、映画を見てつまらないと思ったら本も読まないことがあります。また、映画監督も当然そうだと思いますが、僕も自分の作った小説の方が面白いと信じているところがあるので、不安はあります。
映画を見ても小説も読んでほしいとは思いますが、色々な事情があって別物になってきますよね。『アヒルと鴨のコインロッカー』は意外に一致していますが、映画はお金がかかっているし、大多数の人に向かって巻き戻しなしで発信するため分わかりやすく丁寧に描写する必要があって、例えば恋愛の描写など構成が変わってきてしまいます。
そういう意味ではギャップはとても感じましたね。

『広瀬川にまつわるエピソード』

●聞き手

広瀬川に出会った時の印象はどうでしたか。

●伊坂さん

最初はあまり印象がありませんでした。太白区八木山に最初住んでいて仙台城跡経由で大学に通っていたので、広瀬川は通りませんでした。休み時間に学校から街に行く時に大橋を通る程度だったので、最初の印象は特になかったですね。川原沿いにサッカー場があるので、学生時代にはそこで遊ぶことはありました。
ただ、一番身近だった大橋の下を走っている川と霊屋橋の方の川が同じ川だというのが実感できなくて、別の川だと思っていたのが繋がっていると気づいた時に結構驚きました。

●聞き手

広瀬川は市内で非常に蛇行しますからね。今まで南に向かって流れていたのが突然北側に流れたりするので、同じ川だと思わないということですね。

●伊坂さん

そうなんですよ。僕も最初はあまり意識していませんでしたが、後で気づいて「すごい」と思いました。不思議ですよね。

●聞き手

広瀬川の岸辺を散歩しながら執筆活動をされていると伺っていますが、そういう時のエピソードがありましたら教えてください。

●伊坂さん

結婚した後、霊屋橋のところに住んでいたので、宮城県工業高校そばの遊歩道のベンチに座ってノートパソコンで書いていたのですが、良かったですね。川沿いを奥へ入っていくと車の音が遠くなって川の音しか聞こえてこないんです。そうすると、「自分はそもそも小説が書きたかったんだ。書きたくて書いているんだぞ。」という気持ちに立ち返れました。そういうことを認識するためにも、川の音しか聞こえない、あのあたりのベンチに座って書く時がありましたね。
川の流れの速度は好きですよ。常に動いている、止まらないというのは不思議ですよね。その頃は川の流れを見ることで落ち着いていたのだと思います。
あそこは鹿落坂(ししおちざか)見えるところですが、あの崖も迫力があって野生的ですよね。景色がいいです。だから最近もあそこで取材を受けることが多いですよ。

●聞き手

今インタビュー以外で広瀬川の方に行かれることはありますか。

●伊坂さん

今は引っ越してしまったので、あそこまで足を延ばすことはないです。ほとんど取材しかないですね。余裕があれば歩いて行きたいところではありますね。

●聞き手

仮に車を止めるところがあれば、車で行かれますか。

●伊坂さん

それはありえます。仕事も余裕がなくなってきているので、行ってベンチで書くことはないかもしれませんが、子供がもう少し大きくなれば川に行けたらいいな、とは思います。