第2回 「さしすせそ」よりも大切なこと

●こうちゃん

自分はサラリーマンの前は、もともと板前だったので、例えばだしの取り方にしても一番出汁はこう、二番出汁はこうと厳しく仕込まれているんです。でも、そうした出汁を取ることを面倒に思って料理をしないというよりは、だったら顆粒だしを使えばいいよ、とか、調味料を入れる順番の「さしすせそ」すら守らなくてもいいんだよ、と思ったんです。

●聞き手

まずとにかくやってみることが大事ですね。

●こうちゃん

はい。例えば、「さしすせそ」を守って作ったものと、守らないで作ったものを食べ比べたとき、どれぐらいの人がその味の違いが分かるんだろうか、また、違いが分かる人でも、その味はどれだけ違いますか、それが「さしすせそ」をどうしても守らなければいけないほどのものなのか、ということを考えたとき、大切なことは、そうしたこととは別の場所にあるんじゃないかと思うんです。もちろん、料理に慣れてきたら、適当な作り方ではなく、ちゃんと出汁を取ったり、味付け方も覚えたりして、ステップアップしていけばいい。それは、本を見ながら学んでいったりすればいいと思いますが、そもそも僕のレシピは、まず料理をしてみようというスタート地点を切り開くためのものだと思っています。

●聞き手

簡単そうだから試してみよう、と思ってもらうきっかけづくりを意識されているんですね。

●こうちゃん

そうしたきっかけをつくる案内人がいてもいいんじゃないかな。

●聞き手

それはブログ始めた当初から意識されていたのですか。

●こうちゃん

いえ、ブログを始めたのは、本を出す、出版をするという目的はなかったので、当時はまったく考えていませんでした。

●聞き手

確かにブログ開設当初の記事、これは今でも掲載されていますが、拝見すると、今日はこんなの作って食べましたとか、このお店は美味しかったとか、必ずしも簡単料理のレシピを載せているわけではないですね。

●こうちゃん

そうです。最初は、自分で作ったものを自慢するかのように、例えば、寿司を握って食べましたとか、お造りの盛り合わせを作ってみましたとか、そういった記事が多かったですね。

●聞き手

途中から変わってきたきっかけは何ですか。

●こうちゃん

それはブログで読んでいる方から求められたからです。レシピが知りたい、教えて欲しいといったコメントが増えてきたんです。

●聞き手

そういった方からの要望に応えていくうちに、料理へのきっかけづくりとなるレシピをブログで発信していこうというように変わってきた。

●こうちゃん

もともとは板前だったので、目分量で調理することが結構多かったんです。でも、せっかくレシピを載せるのであれば、分量などもきちんと示さないといけないと思って、まず計ることから始まりました。

●聞き手

計量スプーンなどは使っていなかった。

●こうちゃん

料理は感覚で作るタイプだったので。でも改めて作り方として人に説明するとなると、それがいかに難しくて、これまでの作り方がいかに曖昧かということが、よく分かって勉強になりました。そしてブログを見てくれている方々全員に分かってもらえるような書き方だとか、あとは一見しただけで簡単そうだなと思ってもらえるような工夫をするようになって、そこから大きくブログの内容が変わってきたと思います。

●聞き手

それは、本出版にも関係していたのでしょうか。

●こうちゃん

いえ、それよりもっと前ですね。そうした工夫をしてレシピを変えていったときに、ブログを見てくださった主婦の方々からすごく喜ばれたんです。作ってみたら美味しかったとか、真似してみたら家族から喜ばれた、とか、そんなコメントや「トラックバック」が増えてきました。そのうちYahoo!から、今こういうのが主婦層に人気になっていると紹介されたり、あとは地元放送局の取材があったり、そういうふうに広がってきて、メディアでの露出がどんどん増えてきたので、もしかして出版も夢じゃないのかなって思うようになりました。

●聞き手

そういったブログに代表されるインターネットの良さについて、現在の状況を踏まえてどうお考えですか。

●こうちゃん

ブログに関していえば、今料理ブログは、それこそ星の数ほどありますよね。そもそも季節的なものや旬を大事する料理は、ブログとすごく相性が良いんです。でも料理の本を出版するとなると結構時間がかかります。それがブログだと旬の食材を取り入れたものを作ったら、写真で撮って、すぐにアップできる。しかもいかにもプロっぽいものよりは、逆に素人っぽい臨場感がある方が、見ている人も親近感が湧きます。そうしたところが今料理ブログがはやっている理由だと思うんです。

●聞き手

なるほど。美味しいものを食べたらそれを誰かに伝えたい、共有したいと思うのは自然だと思います。

●こうちゃん

そうした情報を手軽に発信でき、しかもそのフィードバックが早いということが一番のメリットだと思います。本だと出版したらそれっきりの一方通行が多いのですが、インターネットでは意見も即座に返ってきます。例えば、作ってみてここが難しかった、あるいはここがちょっと分からない、といった反応がすぐ返ってくるわけですね。そこがいいところ。

●聞き手

誰もがリアルタイムでやりとりができ、それをすぐ反映させられる。でも、すぐ反応が返ってくるのは良いのですが、皆さんから寄せられるコメントもかなりの数になっていますね。

●こうちゃん

僕の方もなるべく早く返答しようと思っているのですが。

●聞き手

コメントに対する返事は、昔からご自分で全部書かれているのでしょうか。

●こうちゃん

ええ、そのスタイルは変えません。変えていかなければいけないところと、変えないところとは、区別していかなければと思いますが、自分にとってはブログが原点なので、どんなに忙しくても、そこは大切にしたいと思っています。

●聞き手

コメントへの返信は、もう朝早くからされていますね。

●こうちゃん

そうなんです。こうして仕事していると、日中にはいただいたコメントを見れないので、例えば出張で朝早いときは、夜のうちにすべて見て確認して、朝一でアップしてから出張に行く。

●聞き手

もともと朝型だったのですか。

●こうちゃん

最近です。仕事の都合で朝早く起きるようになったら、朝の方が効率がいいということに、やっと気付きました(笑)。

●聞き手

前回のこの「私の広瀬川インタビュー」では、脳トレで有名な東北大学の川島先生にお話を伺いました。川島先生もやはり、朝の方が効率が非常に良いとおっしゃっていました。ブログを書いたり、新しいレシピのアイデアを考えたりするにしても、朝早い方が良いですか。

●こうちゃん

どうなんでしょう。結局一番悩むのは、毎日の日記の部分で、レシピよりも日記のほうが難しい。何の話題を書いたらいいのか結構悩みます。天気とか、くだらない話を延々と書いているような気がする…

●聞き手

今日はこうちゃん何を書いているんだろう、とそうした記事を楽しみにしているファンも多いのでは。

●こうちゃん

レシピではなく、それにしか興味ない方もいますしね(笑)。