第6回 海外のマンガ事情

●聞き手京都国際マンガミュージアムでは、「マンガ・ミーツ・
ルーヴル―美術館に迷い込んだ5人の作家たち―」
という特別展で、「岸辺露伴 ルーヴルに行く」という
展示が公開されていました。
(注:2010年11月5日~12月3日まで開催)
また、2009年にルーヴル美術館の企画展で、
日本のマンガ家としてルーヴル史上初となる
作品展示がされたと伺っています。
ちなみに今回同行しているスタッフでそれを
鑑賞するためにルーヴル美術館に行った者もおります。

●荒木さん

本当ですか?ありがとうございます。

●聞き手

その時はフランスでも大変好評であったと
伺っていますが、今やマンガが日本の誇る
現代アートとして海外で評価される時代だと思います。
私たちが学生時代は、どちらかというと
マンガに対するイメージは良くなくて、
学校の先生や両親などからは
「マンガばかり見ていないで勉強しなさい」
というような時代だったと思いますが、
その時代に先生がマンガ家を志そうと思われた
動機は何だったのでしょうか?

●荒木さん

70年代という「時代の風」でしょうか。もう、本当に
いろんなマンガが出てきた時代だったんです。
SFもあれば時代劇もあるし、
「ゲゲゲの鬼太郎」みたいな妖怪マンガや
楳図かずお先生のような怪奇マンガとか、
とにかくいろいろな作品が一気に出てきた時期で、
そのエネルギーがとにかくすごかった。

●聞き手

一つのメディアとしてのエネルギーが
マックスだったのでしょうか。

●荒木さん

というよりも、新しい時代の始まりという感じ
かもしれない。芸術でいうとルネサンスというか、
一つの黄金時代の始まりというか、
今から思えばそんな感じがします。

●聞き手

そこに当てられてしまって。

●荒木さん

そう、当てられて、もう…ほんと、
マンガ家になりたくてしょうがなかったですよ。

●聞き手

マンガ家になられただけでなく、今ではアーティスト
としてルーヴル美術館に展示されるまでになられました。

●荒木さん

いや、まだまだですけど(笑)…でもね、
当時は「キン肉マン」を描いたゆでたまご先生が、
僕と同い年なのに高校生でもうプロになっているという
時代でした。僕なんか普通に学校通っていた時で、
「えっ、同い年でもうプロのマンガ家なんだ!」って。
その時は焦りましたね、
「もう学校に行っている場合じゃあない!」と(笑)。
それから僕もマンガ描いて、早く投稿とかしないと
プロになれない、と思いました。

●聞き手

そこから独学でスタートされて…

●荒木さん

そうですね。本当はアシスタントとかきちっと
やりたかったですが、その前に独り立ちしてしまって…
二十歳のときにデビューさせていただいたんです。

●聞き手

先ほど申し上げましたように、今ではマンガが海外でも
評価される時代ですが、デビューされてから
これまでのマンガを取り巻く環境の変化は
どのように感じられますか?

●荒木さん

マンガには、例えばストーリーが面白いとか、
画がうまいとか、デザインが素晴らしいといった、
いろいろな要素から成り立つ総合芸術的な魅力も
あると思います。
でも、そのうちのどれか一つだけでも成立すると
思うんです。話が面白くなくても、画がうまいと
それでプロとして成り立ったりするんですね。
普通だったらこのストーリーだと幼稚だな、
というものでも売れちゃうんです。
売れるというか、芸術として成り立つんですね。
逆に、画がこれは子供が描いたの?という作品でも、
とにかくストーリーが面白かったり。
いろんな魅力があるんですよ。
でも、僕には理解できないものもありますが(笑)。

●聞き手

これはすごいと感銘を受けるものは今でもありますか?

●荒木さん

それはもうたくさんあります。
若い人たちはすごいですよ。
でも逆に、画もうまくないし、ストーリーも面白さが
わからないけど売れる、という作品もありますね。

●聞き手

東北大学での講演時にもストーリーは
起承転結が非常に大事という話もされていたそうですね。

●荒木さん

そこから完全に外れているマンガでも、
かなりファンがいたりとか…
それはそれで、すごいですけどね。

●聞き手

そうした懐の広さというのもマンガの持つ
魅力かもしれませんね。一方で、海外では
マンガはどのように受け止められているのでしょうか。

●荒木さん

フランスのマンガは「バンド・デシネ」というのですが、
その描き方はこちらとは明らかに違います。
例えば、日本ではまず表紙に主人公を描くんですよ。
メインのキャラクターをバーン!と。
それを、ルーヴルのスタッフは表紙にキャラクターを
描いてくれるなというんです。
ルーヴル美術館は人物の背景として描いているのに、
背景のルーヴルをメインで描いてくれって。
確かにフランスのバンド・デシネを見ていると、
表紙のメインが背景なんですよ。

●聞き手

主人公はどうなってしまうのですか?

●荒木さん

主人公は背景のどこかに、
よ~く見ると小さく写っていたりとか、
建物の上を飛んでいる飛行機に
ちょっと乗っていたりとか、
運転している車の操縦席からちらっと
見えていたりとか(笑)。
そういう画を描いてくれって言われました。
逆に、日本の場合は絶対にファッション雑誌の
表紙の様に主人公が前にガーン!と出ている。
そこはまるで違いますね。

●聞き手

正反対の価値観なのですね。

●荒木さん

ええ。だから、「日本はこういうやり方なんです」って
説明して描いたんですよ(笑)。
なかなか分かってもらえなかったですが、
「日本人のマンガ家に依頼したんだから、
日本のマンガの方法論でやらせて下さい」と
説得しました。

●聞き手

先生がデビューされた当時の週刊少年ジャンプでは、
10m離れても見ても誰が作者なのか分かる画を描く、
というのが基本だったそうですね。

●荒木さん

ええ、そうです。

●聞き手

でもそれとは逆で、向うの人は一目で誰が描いたのか
分からなくても、いいと。

●荒木さん

まず全体的なムードを描いてくれ、という感じですね。
あなたならルーヴル美術館をどう描きますか、みたいな。
あくまでもルーヴルがメインという考え方ですね。

●聞き手

「ジョジョ」の作者というよりも、アーティストという
位置づけだったのかもしれませんね。