第9回 荒木先生からのメッセージ

●聞き手

では最新作の話をお伺いします。
先日(2010年11月)、第7部「SBR」の第22巻が
発売されました。その中で、
我々行政機関で働く職員にとって
非常に印象的なエピソードがありました。
この世の不幸をどこか自分たちの住む地域とは
別の世界へ追いやるという絶大な能力を得た
アメリカ大統領が、世界中のすべての人間が
幸せになることはありえないので、
自分は愛国心に基づいて、この能力を使って
正しい行いをしていると主張するシーンがあります。
行政職員としては、より多くの市民が幸せを
感じられるような施策を行うことを考えながら、
一方ですべての市民にとって満足のいく施策は
難しいというジレンマがあり、
やはりこの大統領の主張にも
肯かされるところもあるように感じてしまいました。

<「ジョジョ」第七部「SBR」 ジャンプコミックス第22巻>

●荒木さん

予め断っておいた方がいいと思いますけど、
このヴァレンタイン大統領は、悪役ですからね(笑)。
参考にしないで(笑)。でも、実はある意味では
その主張が正しいという悪役にしたかったんです。。

●聞き手

そうですよね、実際、ストーリー上では主人公が
そのシーンで「あれ?間違っていたのは僕?」
みたいな感じで…

●荒木さん

そうそう、揺れています。

<「ジョジョ」第七部「SBR」 ジャンプコミックス第22巻>

●聞き手

先生が「悪役」と言われるのでそのセリフを
真に受けてしまってはダメなんでしょうが、
リーダーシップとしてはありなのかな、とも思えますが。

●荒木さん

いや、現実世界ではありだと思いますよ。
僕自身もこの大統領のようなリーダーシップの方が、
本当は好きです。

●聞き手

上に立つものとしては、やはりそうした覚悟を
背負う必要があると。

●荒木さん

そう。全員にとっての幸せが無理なら、やはりどこかに
視点を置いて考えなければいけないでしょうから。
結局物事において絶対的に正しいとか悪いことって
そんなにないと思います。だからこそ、
もうここだという線引きが重要だし、
政治はそのための仕事でしょうから。
それで、覚悟を持って決めたからにはもう、
突き進んでいくべきだと思います。
ちょっと何か言われたくらいで心が折れたり、
前言撤回したりすることは良くないなと思います。

●聞き手

そういう意味では、ヴァレンタイン大統領は、
政治家としてはOKですよね。
もうこのまま行くしかない。

●荒木さん

悪役ですけどね(笑)。

●聞き手

一方で現実世界は、いろいろな価値観がぶつかり合う
本当に難しい時代です。
今の政治にヴァレンタイン大統領のような精神を
求めることも厳しいかもしれませんが、
それでも寄って立つべき信念は必要ではないか
と思います。大統領は「愛国心だ」と言っていますが、
私たち一市民として持っておくべき信念としては、
先生の作品のテーマにつながる話かと思いますが、
改めてお聞かせいただけませんか。

●荒木さん

愛国心とまではいかなくても、
やはり家族を守ろうという感情や、
あるいは自分が生まれた故郷や今暮らしている地域
への想いなどに繋がる部分だと思います。

<「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第29巻>

●聞き手

「ジョジョ」が「人間賛歌」をテーマとしている
といわれる由縁ですね。やはり先生の仙台への想いも
そこから来ているんですね。

●荒木さん

そこの辺を…自分としては、おろそかにして
欲しくないですし、おろそかにするような人には
上に立って欲しくないと思いますね。

●聞き手

仙台市役所職員は自分の住む街を思う気持ちは
もちろん持っていると思いますが、その上でさらに
覚悟を持って仕事に臨まなければいけませんね。

●荒木さん

そうですね。厳しい時代ですから、
風当たりは強くなるかもしれませんが。

●聞き手

そこはやはり、「ジョジョ」を愛する市職員としては、
作品で描かれているような「『正義』の輝きの中にある
『黄金の精神』」を参考にしたいと思います。

<「ジョジョ」第四部 ジャンプコミックス第47巻>

●荒木さん

「ジョジョ」作品の中での戦いだと、
最後まで勝ち残るのは、
多分一人二人くらいしかいない世界ですし、
また現実も相当厳しい時代ですが、頑張ってください。

●聞き手

ありがとうございます。

●聞き手

さて、広瀬川ではNPO団体が約20年振りに
貸しボートを復活させたり、
市民団体が中心となって企業や大学などと
流域一斉清掃活動などを行ったりと、
市民の皆さんがいろいろな活動を行っています。
最後に、先生から広瀬川に関わる活動を行っている
皆さんへ応援のメッセージをいただけますか。

<参考 NPO法人広瀬川ボートくらぶによる貸しボート事業の様子>

●荒木さん

広瀬川だけでなく、こうした自然環境を守っていく上で、
これからの時代は行政だけで何もかもやっていくことは
不可能だと思います。
昔は、例えば神社の落ち葉掃除などを
近隣に住む人たちが自然にやっていましたよね。
先ほど愛国心の話もありましたが、
そこまでいかなくても
市民が自分の住む街を大切に思う気持ちから、
ボランティア活動などを行うことは
とても大切なことだと思います。
そうした活動をされている方が広瀬川に
たくさんいらっしゃることは、
素晴らしいことだと思います。

●聞き手

市民一人ひとりがそうした地域を愛する気持ちを持って、
連携していければ広瀬川だけでなく仙台市も
さらに素晴らしい街になりますよね。

●荒木さん

そうですね。
誰か一人の力で何とかなるものではないと思いますから。
そのためにも、みんなで芋煮会をしたりして
仲良くなったり、付き合いが広がっていけば
いいですよね。何よりも楽しいし(笑)。

●聞き手

芋煮会はコミュニケーションを深められるだけでなく、
広瀬川をこれからも守っていくことにつながりますね。

●荒木さん

そういった活動がさらに広がっていくことを
願っています。僕もそのために何かできることが
ありましたら協力したいと思います。

●聞き手

ありがとうございます。
先生の広瀬康一君にこめられた想いに負けないように、
私たちもこれから頑張りたいと思います。
今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。