第7回 今後の仙台市とジョジョ作品との関わりは?

●聞き手

確かに欧米では、マンガやアニメは子供のもので、
大人が見るものではないという区分けが
はっきりなされているようですね。
我々ファンは、荒木先生が遂に世界に認められて
ルーヴル美術館に展示された、ということで
嬉しく思っていますが、先生にとっては、
マンガ家の立場とアーティストの立場で
葛藤があったのでしょうか。

●荒木さん

葛藤というか、そうした違いをはっきりと感じましたね。

●聞き手

京都の展覧会では、ヨーロッパの作家さんと
一緒に展示されていますが、その作家さんたちとの
交流はありますか?

●荒木さん

その時来日されていた、ニコラ・ド・グレシーさんには
お会いしました。

●聞き手

日本語訳が出版された際に推薦の帯を
書かれたそうですね。
先生の作品と相通じるところはあるのでしょうか?。

●荒木さん

いや、違いますね。読み味とか全然違うんですよ。

●聞き手

ファンの方が運営されているサイトで
紹介されていましたが、先生のファンならば、
これはこれでひとつの完成された奇妙な世界のように
みえるそうですが。

●荒木さん

そうですね。画がものすごく上手いです。

●聞き手

それはマンガというよりも絵画として。。

●荒木さん

ええ、なんかねこう、大人がお茶とか
お酒を飲みながらゆっくり鑑賞するようなイメージで、
日本のマンガみたいに電車の中とかでバーッと読む
感じではないですね。

●聞き手

アートとして鑑賞するようなイメージですか。

●荒木さん

ワイン片手に鑑賞しながら、「ンー」みたいな(笑)。
あるいは週末の午後はこれを観ながら
ゆっくり過ごそうかな、みたいな感じで。

<「ジョジョ」第五部 ジャンプコミックス第48巻>

●聞き手

日本でもそんなマンガ文化があれば面白いですね。
先生の画集などは、おそらくそういう楽しみ方も
できると思います。

●荒木さん

そうした要素も少しずつ取り入れたいとは思いますが、
でも、電車の中で読むっていうシチュエーションも
また大切なんだよね。

●聞き手

家に帰るまで待ちきれない楽しみというのも
ありますから。荒木さんそうそう。「来週どうなるんだろなあ~」って。
僕が子供のときは、少年ジャンプは本当は
火曜日発売なのに、仙台駅だけは月曜の夕方に
買えたんですよ!もう一刻も早く読みたくて
駅まで買いに行ってました。
そういうのは必要ですよね。

●聞き手

ワクワク感といいますか、続きがどうなるんだろう、
という楽しみが生活の中にあるのは大事ですよね。
その意味でマンガの役割は、大きいと思います。

●荒木さん

そうだと嬉しいですけどね。

●聞き手

こうして話を伺っていると、先生のアイデンティティは
かなり仙台で生まれ育ったことに起因する部分も
かなりあるように感じますが、そのご活躍や
「ジョジョ」作品を知っている仙台市民は多くても、
実際にご出身が仙台だということは、あまり
知られていないような気がします。

●荒木さん

そうかもしれないですね、僕自身あまり仙台を
アピールしていなかったかも(笑)。

●聞き手

たまたまあまりその機会が無かったからでしょうか。

●荒木さん

主人公が旅をするストーリーが多いので、
僕自身がどこかに定住しているイメージが
ないのかもしれない…
「ジョジョ」で日本を舞台としているのは、
第四部の杜王町シリーズだけだし。

●聞き手

ですが第四部で大きくファン層が広がったと思います。

●荒木さん

今度はもっとその辺をアピールしますか、
杜王町を舞台にしているのは、「ジョジョ」の作者が
仙台市出身だからだよ!って(笑)。

●聞き手

ぜひお願いします。

●荒木さん

でもね、殺人鬼とか出てくる話ですから、
仙台市民の方が怒るのではないかという心配が
強いんです。本当に仙台の人たちに
ご迷惑をおかけしたくないから。

●聞き手

今年(※注2010年)は市内でも事件があり、
仙台が全国的に注目された時期もありましたが、
裁判員制度も始まり自分の住んでいるところでも、
そうした事件が身近に感じる時代に残念ながら
なりつつあるかもしれません。

●荒木さん

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のように
街にとって良いイメージがあるような作品であれば
良いのでしょうが、僕の作品のイメージだと、
ちょっと…(笑)。
あんまり大々的に仙台をそうした舞台とするのは
気が引けます。

●聞き手

ところで、以前先生にエコバッグのデザインを
お願いしたことがありましたが、先生に描いて
いただいたものは大人気で
あっという間になくなってしまいまして。

●荒木さん

嬉しいですね、エコバッグで少しは仙台市に
貢献できたのかな。

●聞き手

大変話題となったのですが、エコバックの制作枚数
自体がそれほど多くはなくて、あっという間に
コレクターアイテムになってしまったみたいです。

●荒木さん

市民の皆さんに喜んでいただけるなら、
今後も頑張ります。聞き手「ジョジョ」ファンの皆さんは、仙台を
聖地巡礼として訪れる方がいらっしゃるようですし、
また仙台市での「ジョジョ立ち」も大変盛り上がったと
伺っておりますので、ぜひ、仙台で「ジョジョ」を
リアルに感じてもらえたらと思います。
ちなみに仙台市では「彫刻のあるまちづくり事業」を
行っていて、市のシンボルである定禅寺通りの
ケヤキ並木の下などにも、ファンには「ジョジョ」の
世界観を感じさせる彫刻もありますし。

<参考 定禅寺通の彫刻 エミリオ・グレコ作「夏の思い出」>

●荒木さん

ああ、ありますね(笑)。

●聞き手

熱心なファンの方でしたら、「ジョジョ」とは
全く関係がなくても「捻り」が入った彫刻を見て
喜ばれると思いますが、実際に「ジョジョ」を
モチーフとした作品を仙台市で鑑賞できたら、全国から
ファンの方がたくさん仙台市を訪れてくれると思います。
ちなみに、仙台市役所にも「ジョジョ」の熱心な ファンがいて、
作品に登場するエピソードや
名所などを巡るルートを設定して、仙台市としても
セールスポイントをつくろうという企画がありました。

●荒木さん

いやそんな、恐れ多い(笑)。でも夢のような話としては、
なんだか、楽しそうですね。

●聞き手

実際に青葉区花京院にある郵便局などをファンの方が
訪れて、「郵便局なのにやっぱり緑色だ!」という話も
あったそうです。普通の郵便局だけでなく、
街のいろんなところに「ジョジョ」ワールドを
見出す熱心なファンの方がいるようです。