宮城教育大学 助教授 棟方有宗さん

はじめに

広瀬川では、上流域から下流域にわたって四季折々、流域ごとの魚類相にふれることができます。例えば雪解けの増水がおさまる頃、青葉山周辺の広瀬川では水中を泳ぐウグイやアブラハヤ、そして川底にはハゼ科の魚、ヨシノボリの姿が見られるようになります。また網をかざして底石を長靴で掻きまわすと、カジカやスナヤツメ、ギバチなどの、環境のバロメーターとなる魚達も確認することができます。さらにこの付近では、夏にアユ釣りが盛んになり、秋にはシロサケが海から遡上してきます。

このように、市街地を流れる中流部においても多種多様な川魚と出会えることが、都市河川と呼ばれている広瀬川の大きな魅力の一つだと言えます。

広瀬川中流域の2004年の気温、水温、および河川水位の周年変化

広瀬川中流域の2004年の気温(黒い破線)、水温(青い実線)、および河川水位(水色の棒グラフ)の周年変化。水温は8月に最も高くなる。また、広瀬川は冬と夏に渇水して水位が低下し、雪解けや台風シーズンになる春と秋に水位が高くなる。(気温データは気象庁仙台管区気象台ウェブページより、河川水位データは国土交通省水文水質データベースより引用。)

■ 広瀬川の魚類相の成り立ち

では、広瀬川の魚類相はどのようにして支えられているのでしょうか?一部の魚は、主にカゲロウ、カワゲラ、トビケラなどの水生昆虫類を捕食して成長しています。これは、ストマックポンプというスポイトを魚の口から挿入して、胃の中の内容物を吸い出すことによって観察することができます。魚類の胃内に現れる水生昆虫の種類は、一年を通して大きく変動します。

特に夏は、水生昆虫類に加えて山林や河畔林から飛来する陸生昆虫類が多く見られるようになるのです。これは、ある種は冬、またある種は夏といったように、それぞれの昆虫が魚のエサになりやすい時期がある程度決まっているためと考えられます。このことは、広瀬川の魚類を保全しようとするとき、魚のエサとなる生物が一年を通じて絶え間なく出現するように川を手入れしなくてはならないことを意味しています。

それでは、ある一部の流域の生態系を管理すれば、広瀬川の環境はより豊かになってゆくのでしょうか。意見は分かれるかも知れませんが、後述するように私はそれだけでは不十分だと思っています。

広瀬川の中流域で見られる水生昆虫類

広瀬川の中流域で見られる水生昆虫類。左からアカマダラカゲロウ、キイロカワカゲロウ、カワゲラ、ヒゲナガカワトビケラの幼虫(いずれも牛越橋周辺で採集したもの)。

■ 海から広瀬川に遡上するサケ科魚類

国道48号線を愛子から西に向かい、熊ヶ根橋を過ぎると、広瀬川は落差のある山岳渓流の様相を呈するようになります。この辺りからは、ヤマメやイワナなどのサケ科魚類の本格的な生息域になります。多くの釣り人を魅了するこの魚達は、サケ科の名を冠することからも判るように新巻鮭で知られるシロサケの仲間です。

前者のヤマメは、正式名称をサクラマスといいます。サクラマスは、川で生まれた一部がそのまま終生の河川生活をおくり、これを私達はヤマメと呼んでいます。一方、川に残らなかった一部の魚はシロサケと同じように海に下り、北洋まで延べ数百キロにわたって大回遊を行い、また自分が生まれた川に戻ってきます。このサクラマスの系譜は、今も広瀬川に確実に息づいているものと思われます。本格的な調査はこれからですが、私は広瀬川で数回、海から戻ってきたと思われる大きなサクラマスの姿を目撃しています。

広瀬川の上流域で見られるサケ科魚類の仲間、ヤマメ(上)とイワナ(下)。