vol.7 水はすべての生き物にとっての生命線である

宮城教育大学環境教育実践研究センター
助教授 斎藤千映美(さいとうちえみ)さん

水は、すべての生き物にとっての生命線です。もともと人は、水の湧き出るところ、水の流れるところから離れて生きることができません。水道の整備が局所に限られていた時代、人間の生活圏は水のほとりに限られていたはずです。
広瀬川流域に生息する多くの動物にとって、いまでも状況は同じです。
上流部では流れのよどんだ砂州にカモシカやテンの足跡が残されています。水は、けものたちの生命線なのです。

■ 動物のハイウェイ

2004年秋、仙台市青葉山にクマが出没しました。青葉山は市街地を目前に控える丘陵地。市民の憩いの場でもあるだけに漠然とした不安をあおりました。数回の痕跡を残してクマはそっと姿を消し、騒ぎは終わりましたが、そこから私たちに読み取れる事実があります。クマは森林性で、彼らの存在はそこに残された自然の質を雄弁に物語ります。クマの出現は、奥羽山脈から蕃山・太白山・八木山の渓谷を通って青葉城まで途切れることなく連続する森林の豊かさを意味しているのです。

青葉山からのぞむ河川両岸の森

青葉山には、テン、イタチ、ムササビ、リス、各種のコウモリ類など東北地方の森林性の一般的な哺乳類の多くが見られます。豊富な植物、鳥類、昆虫類なども、大都市の市街地と川一本挟んだこの小さな丘陵に息づいています。川の向こうの街中には、川面を渡って森の風が吹き込んできます。脊梁山脈から平野まで、このようにバランスのとれた自然の配置が都市近郊に残されてきた理由を考えるとき、広瀬川の存在を無視することはできません。

広瀬川の上流部・中流部は切り立った渓谷をなし、人の近づくことのできる場所は限られています。両岸の多くの部分が森林に覆われ、動物たちにとって格好の棲みかになっています。中流部の崖付近ではカワセミが営巣し、オオタカの飛翔を見ることもできます。

昼間、河原敷を歩くサルやカモシカが目撃されることもあります。容易に人の降りることのできない川の両岸は、動物が安全にできるハイウェイでもあるのです。

キクガシラコウモリ
ハクビシンの子ども

■ 河川に守られた動物生態系

しかし動物たちの棲みかも、人の歴史の中で無傷のままではいられませんでした。戦後の林野行政により、特に上流部の森林はずたずたに切り裂かれました。いまでも仙台市西部、関山峠や野尻・二口の山中に入れば、原生林が伐採された跡をはっきりと目にすることができます。

さらに森林を分断する要素の一つとして道路があります。1953年以降の国道仙台山形線(現R48)制定と整備、1975年の東北自動車道開通、1983年の西道路開通。道路が動物たちの移動ルートを阻害するだけでなく、いったん道が付けば人間活動が周辺で活発に行われることになるため、二次的な環境破壊がもたらされます。仮に道路を建設する作業によって奪われる自然が限られたものであっても、地域の自然の質は、長期的には少しずつ低下しているはずです。

また近い将来、青葉山周辺は新たな、そして大きな開発の波を向かえます。2本の道路建設、地下鉄東西線の開通、そして東北大学の青葉山キャンパス移転。これらの整備によって、東北大の植物園や青葉城址など、青葉山の裾野周辺の自然は大きな影響を受ける可能性があるとも指摘されています。広瀬川に守られてきた中流域の動物たちは、どのように変化していくでしょうか。