第6回 地域との連携を成功させるために

●聞き手

地域との連携についてお聞かせいただきたいのですが、先生は著書の中で高齢者と子供が共に学ぶことが大変有効で、しかも、それが地域の活性化にもつながると述べられています。そうした場や人づくりも今後はますます重要だと思います。なかなか行政だけでは手が回らなくて、NPOや市民団体が活発に活動しているのが現状だと思いますが、先生の目から見ていかがでしょうか。

<参考>市民活動団体による小学校でのワークショップ開催風景

●川島さん

まず、地域ぐるみで高齢者と子供を掛け合わせて、同じ立場で何かさせようというプロジェクトに取組むときには、公立の学校を使うのが一番です。つまり、地域の一番良い所に公立小学校があり、少子化によって空き教室も出てきているので、そこに高齢者を引き込んで、自然に高齢者と子供のふれあう環境が作れるわけです。当然そこには、地域のボランティアやNPOが関わってこないと回りません。彼らはやる気も十分にある。しかし、異なる世代の人々を、特に学校という場所に集めるときに、一番壁になって立ちはだかってくるのは行政です。子供は教育、高齢者は福祉の担当という組織の縦割りのため、子供と高齢者が一緒になって何か問題があったときには、どちらが責任を取るんだという責任論になりがちで話が進まない。おそらく、市民活動をしている人たちも、そこに不満を持っているのではないでしょうか。ですから、私たちがそうしたプロジェクトを行う際には、小規模でそうした弊害がなく、首長の意向が末端までしっかり行き渡っているような自治体で行うようにしていますし、こうした地域ぐるみの取組みにおいて市民の力を活かす上でも、行政にはもっと頭を柔らかくして対応してもらえないと厳しいと思います。

●聞き手

そうした先生の言葉をお借りすると「科学をだしにして子供と高齢者を引っ張り込み」地域の活性化を図るというお話のなかで、そこに先生はさらに企業を引っ張り込み、大学と企業と地域のいわば「三方良し」というような関係を築かれていると思いました。一方で、私どもが関わっている市民活動団体でも、地域社会への貢献を行っているものの、運営がなかなか厳しいという現状があります。今、行政として大きな課題をいただきましたが、市民活動団体が持続的な活動をしていく上で、企業や民間の力を借りていくために、アドバイスをいただけますか。

●川島さん

難しいですね。企業は営利を目的として設立されているわけですから、利益を上げることが主目的です。だから企業にボランティア活動を求めても、社会貢献活動の一環としてしか乗り込んでこない。

●聞き手

そうですね。

●川島さん

でも、そこで知恵を絞らなくてはいけない。活動に必要な資金は、まず需用者負担で出してもらい、活動することによって明らかにメリットがある、ということを「学」の場がしっかり見せる。そうすると企業もお金を出してもいいかなと思うし、本当にそこにメリットがあれば企業にもお金が入ってくる。そうしたお金が入ってくると分かれば企業の参画も進む、というサイクルをつくり出すことが、これまでの経験から大事だと思います。

●聞き手

いかにそうした仕組みやサイクルを作れるかが重要ですね。

●川島さん

その工夫が一番重要です。

●聞き手

広瀬川を後世に引き継ぐため、次世代への伝承も不可欠だと思いますので、高齢者と子供を結び付けることは、広瀬川においても特に重要だと思います。また、そのような場としても、広瀬川という環境はとても魅力的だと思うのですが、いろいろ広瀬川に関わる活動団体がありますが、なかなか現役世代の人が増えず、メンバーの高齢化が進み持続的な活動としていくことは難しいようです。

●川島さん

多くの失敗の原因は、高齢者を教師にすることにあると私は思います。そうすると、子供はうっとうしくなって逃げていきます。子供というのは、主体的に何かをしたい生き物なんです。教わることは、十分学校でやっていて、それ以上はうっとうしいだけですよ。家でも親に何かうるさく言われ、学校でも言われ、その上、外にいても高齢者からいろいろ言われる、というのではうまくいくわけがありません。

●聞き手

確かにそうかもしれません。

●川島さん

そうではなくて、高齢者も子供も同じ学ぶ立場の人間として、その場にいるという仕組みをつくると非常にうまくいきます。その場合には、教師役には中間層として働き盛りの人にインストラクターとして立ってもらう。そうすると異なる三世代が協調するようになります。生徒同士である高齢者と子供がコミュニケーションを取り始めるんです。教師と生徒というのは、うまくいかないのは当たり前ですからね。逆に生徒同士というのは、先生がちょっと意地悪したりすると仲良くなったりしますから。

●聞き手

子育てをしている現役世代の方をターゲットとして、活動に取り入れることが大事なんですね。

●川島さん

そうです。現役世代の方にインストラクターとして入ってきてもらう。彼らにとっても人に教えることは誇りになりますし。一方で高齢者に対しては、その場で心身を健康にしてもらうためのアクティビティということで集まってもらい、子供たちは遊びのアクティビティで集まってもらい、同じ生徒として参加する。そこに現役世代がインストラクターが立つという作り方をしていくと面白いことが見えてきます。

<参考>現役世代をインストラクターとした川遊び安全講習の様子

●聞き手

現実には、川については自分たちが一番知っているんだと思っている高齢者の方々が多いように見えますが。

●川島さん

そういう人は連れて来ちゃいけないんです(笑)

●聞き手

市民活動団体に集まってきている人たちは、どちらかというとそうした方ばかりみたいで…。

●川島さん

そういう人たちは、誰と組んでもうまくいきませんよ…

●聞き手

なるほど。スキームづくりから考えていかなくてはいけないのですね。ところで、先生の著書の中で、痴呆症の患者さんは、話すこと自体が少なくなるためにさらに痴呆が進むことがあると書かれていましたが、広瀬川に関わる方々は、みなさん大変話し好きです。ただ同じ話しを繰り返しがちなところはありますが。

●川島さん

あまり良いサインではないですね。自分が伝えるだけの一方方向になって、コミュニケーションになっていないんですよ。それは本人たちにとって不幸なことです。

●聞き手

何とかしなければ。

●川島さん

そこで高齢者も子供と同じ生徒役になってもうらうと、生徒同士のコミュニケーションになります。その中で高齢者の方たちが培ってきたものを、子供たちに少しずつ渡してあげるというのが理想です。どこの自治体でも、高齢者の活用というと高齢者を教師役にするのですが、失敗する事例がとても多い。それは、たいてい子供がイヤになって逃げちゃうからです。

●聞き手

是非参考にさせていただきたいと思います。

●川島さん

いろいろ話しましたが、地域が一体となって子供たちの健全な育成をしていくために、行政にはまだまだすべきことがあると思います。

●聞き手

どんなことでしょうか。

●川島さん

まず、もっともっと自然の中で遊びましょう、ということを繰り返し繰り返し発信することです。例えば季節毎に、今はここがいいですよという情報なども含めて、市民にもっとアナウンスすることです。また、教育委員会を通じて学校現場に自然体験の大切さを訴えるメッセージを出していくことも大切です。それと、そうした自然体験のボランティア活動の核となる人のサポートもしてもらいたい。やりたいと思う人はたくさんいると思いますが、きっかけがない、ノウハウがないといった方が多いと思うので、そういう意欲ある市民に、行政側が働きかけ、レクチャーしたり、機会を設けていくことも有効ではないでしょうか。

<参考>地域のボランティア活動のための草刈講習会の様子

●聞き手

先ほども伺いましたが、活動の核に現役世代をうまく取りこむことが重要だと。

●川島さん

そうです。特に、最近の30~40代の世代では、社会と関わっていくことが自分の存在価値につながるという認識が広がっていると思います。ただ、どこでどう参加していいのか分からないという方が圧倒的に多いと思いますので、その第一歩を踏み出すためのノウハウの提供や、活動資金の助成などを行政側が支援していくことが良いと思います。

●聞き手

広瀬川については、「広瀬川市民会議」という市民活動団体が精力的に活動しており、現役世代の皆さんの参加を待ち望んでいますので、先生の話を聞いて興味を持たれた方がいらっしゃったらぜひこちら広瀬川創生室までご一報ください。