第7回 川島先生からのメッセージ

●聞き手

最後にこれからの研究テーマや、今後の社会貢献などに関して、特に関心のある内容について教えてください。

●川島さん

一般にお見せしていない私の本来の研究活動は、これからもずっと続けていきますが、社会と関わる活動では、子供の基本的生活習慣を定着させることへの社会的コンセンサスができていないので、例えばもっと極端に夜型社会を自制することを社会に意識づけられるような啓蒙教育などをやっていきたいと思います。それが定着して初めて、バーチャルでないリアルな自然体験などが重要になってくると思います。

●聞き手

平成22年2月に開催された「子供の生活習慣づくりフォーラムin東北」や、先生にも実行委員になっていただいている「仙台子どもの生活習慣づくり普及事業実行委員会」などでも、子供の頃の生活習慣が本人の将来に大きく影響することを紹介されていますが、先生の実体験から市民の皆さんにメッセージをいただけますか。

●川島さん

「早寝早起き・朝ご飯」はデータ上、子供の成長にとって明らかにプラスになっています。というよりも、「早寝早起き・朝ご飯」が守れないことによるマイナスの影響がはっきりしている、といった方が正しいですね。私自身、親から何を厳しく躾けられたかというと、やはり生活習慣の躾です。また他者に対する礼儀作法もきつく躾けられました。それは今の私の宝になっていると思います。また、私は小学校3年までは群馬県の前橋に住んでいましたが、近くに山や川があり、休みの日は朝から釣り竿を持った父と一緒に、私は海水パンツをはき、網を持って、泳ぎながら一日中魚捕りをしていました。そうした自然体験をしながら幼少期を過ごしてきたことが、こうして研究者としての今の自分の核になっていると思いますので、子供にはやはりそういう体験をさせてあげるべきだと思います。繰り返しになりますが、それができる環境が仙台にはあるんですから。

<参考>街中で普通にアユ釣り風景が見られる恵まれた自然環境(大橋下流)

●聞き手

ありがとうございます。私たちも、もっともっと広瀬川をはじめ仙台の魅力を発信していきたいと思います。

こぼれ話

●聞き手

広瀬川とはあまり関係ありませんが、先生の研究から、料理することも脳の活性化にとても良いそうですが、日本の女性の平均寿命が高いのは、やはり主婦として家庭で女性が料理することが多いことに影響しているのかなと思いましたが、そうした関連性はあるのでしょうか。

●川島さん

なくはないと思います。調理することは脳をよく刺激しますから。その意味では、脳の健康にとてもいいはずです。ただ、女性の方が長生きすることは、女性が子供を産むという体になっていることが非常に大きいと思います。

●聞き手

脳というより身体的能力が違うのですね。

●川島さん

体自体が丈夫にできているんですね。子供を産むというストレスに耐えられるようにできていますから。男性はそういうストレスがない分、弱くできている。

●聞き手

料理が脳に良いというのは、手を使うからですか。

●川島さん

手を動かすからではなく、料理は手順を要求されるので、手順のとおり行うということが、前頭前野の働きによるものだからです。

<参考>広瀬川のアユを使った料理(マサくんの広瀬川体験フォトVOL3より)

●聞き手

今はレシピもかなり親切に書いてある上に、インターネットなどで検索すると材料から作り方までずいぶん簡単に分かるようになりましたが、脳の活性化にとってはどうなのでしょうか。

●川島さん

レシピは見てもかまいません。というのは、いくらレシピを見てもそれが頭の中に記憶として残っていないとつくれませんから。情報はいったん記憶として頭の中に入りますが、だからといってレシピ通りの料理ができるとはかぎりませんし。

●聞き手

ちなみに先生は料理されるのですか。

●川島さん

やりますよ。気が向くと自分で作っちゃいます。

●聞き手

先生自ら実証済みなのですね。

●川島さん

実験はしています。料理をすると脳の働きがよくなることは、子供にも大人にもいえるということが分かっています。それと、親子で一緒に調理する体験が、実は子供が大人になったときに幸福感につながるということも分かっています。(参考:大阪ガス「料理で脳が活性化」)

●聞き手

幸福感?

●川島さん

自分が今、幸せかどうかという感覚は、子供の頃に親子で一緒に調理した経験があるかどうかに依存しているということです。

●聞き手

私はあまりそういう経験をした覚えはありませんが、幸福を感じる上で損をしているんでしょうか。

●川島さん

そうかもしれませんが、でも幸福感はそれだけに依存しているわけではないので、その他のことを親がしてくれていたのかもしれません。あと、親が子供にしてあげられることに関しては、先ほども話しましたが、生活習慣やしつけが大事ですね。

●聞き手

先生のような親を持つ子供の場合、厳しく育てられる分、大人になって幸せを感じられるわけですね。

●川島さん

私は自分の子供たちに、私の親から教わった躾は、きちんと同じように躾たつもりです。みんな男の子ばかりで荒っぽいですが、他の方からは礼儀正しいとほめられます。あと、子供たちが小さな頃は、海山川に連れて行き、意識して自然体験を取り入れていました。それは自分も子供の頃に自然の中で育まれてきたという強い思いがあったからです。

●聞き手

先生の息子さんが小学校の教員となられたと聞きました。先生からの教えを引き継がれて、息子さんも小学生に自然体験の大切さなどを教えることになるわけですね。

●川島さん

息子とはよく学校の話を家ではします。私は彼にもっとああしろ、こうしろと注文を言いますが、どうも彼は子供と一緒になって本気で遊んでしまうタイプみたいで(笑)

●聞き手

それと、脳の働きは朝が一番いいので、先生は夜は早く仕事を切り上げて、朝から集中的に仕事をされるそうですね。ご家族だけではなく、研究室のみなさんにもそうしたことを習慣づけようとされているのでしょうか。

●川島さん

そうするよういっていますが、なかなか徹底できないですね。結局、朝一番早く来ているのは私です。

●聞き手

話しは変わりますが、先生は社会貢献活動などで得られた収益、それもこれまで莫大な金額だと聞いていますが、基本的に大学に寄付されていると伺いました。

●川島さん

寄付というよりも、自分の分を受け取らないというのが正確ですね。TLOという社会と大学を結ぶ会社があり、企業から受け取るお金はそこに入金されたあと大学に戻ってきます。大学に入ったお金は、本部で天引きされて研究所に入ってきます。その研究所に入ったお金の半分は研究所の取り分で、残り半分は個人の取り分となるわけです。その個人の取り分を受け取るか、取らないかは自分で決められるわけで、私の場合は取らない。個人の取り分をなしにしているので、全額研究所に入ってくるということです。寄付というのではなく、権利の放棄ということです。

●聞き手

研究者というと、大学の中に閉じこもって専門的な内容を研究するという一般的なイメージがあって、社会の営利活動とは別なイメージがありますが、先生はどんどん外に出て行かれて、研究で得られた成果を広く社会に出されているというイメージを受けるのですが、それは先生のポリシーなのですか。

●川島さん

私たちの95%の活動は、研究室に閉じこもって行う活動です。ただ一般に見せていないだけなんです。それ以外の5%の活動を見て、みなさんは私たちのことをすごいなーといってくださっている。ただ、私の場合はその5%の活動を意識してやっていますが。よくマスメディアを通じて言っていることですが、私たちは国立大学の教員ですから、税金で給与をまかなわれていて、研究費用も全て税金を使っていますから、いわば税金の寄生虫なわけですね。だから好きな研究をしているだけでいいのかという自問自答を私の場合はしているわけで、使った税金の分は、きっちり社会に返さなくてはいけないという思いで5%の活動を意識して行っています。

●聞き手

全体の5%の活動とはいっても、そうして先生が社会でアピールされることは大きな影響があると思いますし、家庭でも研究室でも率先して脳の機能に有効な生活習慣を実践されている先生だからこそ、大変説得力があると思います。今日はお忙しいところありがとうございました。