活動の指針として

 具体的な指針を5点ほど、思いつくままあげてみました。

①「定点」の視点を持つ

 地域に暮らしているということは「定点」の視点を持っているということです。同じ場所に暮らし続け、毎日毎日、同じ視点から川を見ていれば微細な変化に気づくようになることでしょう。季節による川面の色や水かさの変化。大雨のあとの増水とその回復。河原の植生や鳥や魚の生態と変化。また、災害を経たあとの被害。同じ場所で見続けているからこそ見えてくるものは、必ずあるはずです。

②「記憶」を集める

 「記憶」とは「思い出」のことです。いま、ここに立って川を眺め考えるだけでなく、20年前、30年前、50年前、さらに戦前へとさかのぼると、川にはさまざまな記憶が内包されていることに気づかされます。地域の人々の暮らしの記憶を集めに、聞きに出かけてはどうでしょうか。たとえば、戦後数年間に、仙台、宮城は何度も深刻な水害に見舞われていますが、片平地区では具体的にどんな被害があったのでしょうか。断片的な記憶であっても、伝え聞いた被害の話をガイドの中で披露すれば、よりリアルに参加者の胸に響くと思います。片平地区には、早川牧場、仙台市動物園など興味深い施設が立地していた時代もありました。そうした施設にちなむ物語を掘り起こして伝えていくのも、活動の幅を広げると思います。

③地元ネットワークをつくる

 ②の「記憶を集める」ことにも関連しますが、地域にはさまざま情報、知識を持つ人が暮らしています。川釣りのことならあの人、河原の生きものならあの人、戦災の記憶ならあの人、というように、さまざまなテーマについてくわしい話をしてくれる「あてになる人」を持つことは地域活動なら可能でしょう。中には、そうした地域住民についての情報を把握し、その存在を教えてくれる人もいるかもしれません。会の活動の少し外側に、そうした人々とのネットワークをつくり上げることは、活動を下支えするものになると思います。あわせて、地域外にも目を向け、川に精通した人のネットワークを構築しておけば、いざというときの助けになるのではないでしょうか。

④「実感」と「イメージ」を育てる

 参加者を募り散策のガイドをこなしていくためには、歴史家のように細密な史実を把握するまではいかないにしても、歴史を知り、関連する本を読み、地図で変遷を確かめるといった作業や勉強が欠かせません。そして、ここに地域住民としてのガイドのあり方を加えるとすれば、そうした知識を自分の経験を通して振り返ったり、五感を生かしてとらえ直し、より「実感」と「イメージ」がともなったものにしていくことが必要だと思います。

 例をあげると、伊達政宗の墓所である瑞鳳殿の説明では、ホトトギスの初音を聞きに出た政宗がお付きの者に、経ヶ峰を自分の墓所にするよう伝えたという話が披露されると思います。史実を伝えるだけでももちろんいいのですが、ホトトギスの鳴き声を実際に聞き、当時、その初音を聞くことがどんな意味を持つものだったかを確かめておけば、説明をより興味深いものにできるのではないでしょうか。また、文学では夜のホトトギスの鳴き声が珍重される一方で、江戸時代、夜に厠にいるときに鳴き声を聞くと不吉だという言い伝えもあったといいます。瑞鳳殿の説明を一つとっても、自分の耳で広瀬川のホトトギスの鳴き声を聞き、こうした説明を加えていけば、より参加者の興味をかきたてる散策が実現できるはずです。

⑤「場」をつくる

 広瀬川のまち歩きとは、参加者と「広瀬川をゆっくり歩く会」のメンバーがいっしょにつくり上げていく「場」であると考えます。そこでは、互いが気持ちを開きことばを掛け合い楽しいやりとりができるよう、常に双方向の関係が保たれるように心がけることを忘れないでいただきたいと思います。ときには、ガイド側から参加者に問いかけ、参加者に話をしてもらう場面をつくることがあってもいいでしょう。参加者の満足は、ただ知識を得ることにあるのではなく、風に吹かれ川を眺めながら、広瀬川への共感を深められるかけがえのない時間を過ごせるかどうかにかかっています。互いにとってのいいひとときを実現していってほしいと思います。

堤防まで降りて、大橋を下から眺め説明する。

むすびに

 この講座当日どんな話をしたらいいかを考えるために、講座の前に「広瀬川をゆっくり歩く会」のメンバーの方々にお話をうかがいました。そのとき、あとからメンバーに加わったという男性が、「初めて散策に参加したとき、飴玉をいただいたので感激したんです。いろんなまち歩きに行きましたが、そんな歓迎を受けたことはなかったので」と話されていたのが印象に残りました。メンバーの方々は、地元民として外からの方を迎え入れるという思いで、この活動を続けていらっしゃるのだと想像ができました。その想像どおり、いただいた資料の会の説明には「広瀬川を愛する地元住民や市民・学生が集まって、自ら楽しむことを忘れずにおもてなしを心がける団体です」とあり、「おもてなし」にはアンダーラインが引かれていました。ここに地域住民が行う活動の根幹があると感じます。

 市民センターを拠点に、地元町内会とつながりながら仙台市河川課とも連携するこのような活動が、広瀬川の流域にさらに一つ、二つと生まれていけば、上流から下流までのそれぞれの地域で、「定点」を持ちつつさまざまな市民と交流する場がつくられていくことになります。この活動をモデルに、ぜひとも活動の模索を試みて、一人でも多くの市民が広瀬川に関心を寄せる仙台になってほしいと思います。