■魚道遡上調査

1996年(改修前)と1999年(改修後)の、アユが遡上する6月に、魚道出口に24時間にわたり捕獲器を設置し、捕獲器内の魚の種類、尾数、大きさを調べた結果を次に示します。

1996年(魚道改修前):
調査時の魚道内の流量は0.6t/秒、流速は1.6m/秒、河川水温は15.8~19.3℃でした。24時間観察中、アユ2尾(体長11~14cm)、ウグイ2尾(同15~23cm)しか魚道を遡上しませんでした(図1)。調査当日に郡山堰下流で捕獲したアユの体長は5~11cmでしたが、上流(愛宕堰下流)では9~11cmありました(図2)。アユが魚道を通過する際の遊泳速度の目安となる突進速度は、体長6.6cmの小型魚が1.2m/秒、14.4cmの中型魚が1.8m/秒であることから、調査時の1.6m/秒の流速では、8~10cmの小型のアユは遡上できなかったと思われます。

図3 1999年(魚道改修後):
調査開始時前に魚道内の流量を0.1t/秒、流速を1.2m/秒に調整しました。魚道出口で捕獲されたのは、アユ823尾、ヨシノボリ467尾、アブラハヤ5尾、ギンブナ4尾、オイカワ2尾、スジエビ40尾の合計1,341尾でした(図3)。また、調査時に郡山堰下流と魚道出口で捕獲したアユの体長は、どちらも6~14cmで差がありませんでした(図4)。つまり、魚道改修によって、入り口の改善と魚道内の流速を小さくすることにより、小型魚の遡上が可能になりました。なお、調査時の河川水温は18.5~22.6℃でした。

■残された課題

2003年の調査では、郡山堰下流では投網1回あたり10尾以上の魚が捕獲されましたが、郡山堰上流では1.3尾/網と極端に捕獲尾数が減少しました(表1)。今回の改修により魚道を遡上するアユは多くなりましたが、それでもなお多くが魚道の下に留まっています。

魚は一般に流れに向かう習性があり、魚道の入口が流れの中心から離れている場合には、たまたま入口を見つけた魚しか魚道を利用できません。現在の魚道の入口は堰堤から35m下流側に設けられており、堰の越流水量が多い時期には、アユの一部は魚道の入口が見つけられず、堰の真下まで行ってしまいます。そこは水深が10cm以下のコンクリートのたたきであり、アユは高さ1.5mの堰を越えられず、多くが堰下に留まっております(表1)。毎年5~6月の遡上時期に広瀬名取川漁協では堰下にたまったアユを捕獲し、上流に放流しています。

今後すべてのアユが魚道を利用できるようにするためには、魚道本体の中間部を上流側に折り返して入口を堰直下に設置するとともに、入口付近にアユを誘導するための「呼び水」を流すなどの改修が必要です。この方式の魚道が設置されている名取川頭首工では、毎年多くのアユが遡上しています。また、現在は魚が堰本体を越えられる棚田式の魚道等も考案されています。

広瀬名取川漁協では毎年10万尾以上のアユを放流していますが、アユ資源を増やすためには天然魚をいかに増やすかが重要です。アユは河川を遡上しながら珪藻(石表面の苔)を食べて大きくなり、大きいアユほど秋に多くの卵を産みます。魚道を整備し、できるだけ上流域までアユを遡上させ、成長させることが必要です。アユは河川中流域にあたりまえに生息していた魚であり、アユが生息できなくなった河川は環境が悪化していると考えられます。残念ながら広瀬川のアユ資源は減少傾向にありますが、魚道のみならず水量、水質、水温、餌等もアユの生息に大きな影響を与えます。アユが棲める環境を維持しながら、種苗放流を効率的に行い、資源を適切に管理することにより回復させること必要です。