フリーライター/西大立目祥子
■50年を経て大木に育った樹木
変わっていない。橋のたもとに立って、そう感じた。
今回、小野幹さんが用意してくださったのは牛越橋の写真だ。水の流れが変わっていないのはいうまでもないが、橋脚がまったく同じ。そして左手向こうに見える大崎八幡宮の杉木立も、同じようにこんもりと弧を描いて茂る。撮影年は不明、とのことだったが、どことなく春めいた印象からすると、橋の竣功なった昭和29年5月ではないのだろうか。
牛越橋あたりは、戦後の度重なる台風で大変な被害をこうむった。護岸工事がなされ、ようやく完成した永久橋を、地域の人はよろこばしい気持ちで受けとめたはずだ。橋には詰め襟姿の中学生たちだけでなく、この新しい橋を眺めにやってきたような人の姿もある。
それから50年が経つ。半世紀の間には、緑が失われ…と漠然と想像してしまうけれど、いやいや、橋の向こう側、写真の左手はむしろいまの方が樹木は厚い。中央に目立っていた鉄塔を隠すほどに大きなケヤキが育っているし、大崎八幡宮の杉木立の手前のケヤキもいまはもっと背が高くなった。
鉄塔わきのケヤキは、篠原さんというお宅の敷地にあり、太さはちょうど青葉通のケヤキぐらい。インターフォン越しにうかがったところでは、「樹齢は60~70年でしょうか。うちがここに越してきたときにはありました」とのことだった。これだけの大木を庭先でよくも伐らずに守ってこられたものだ。これも川に近いという環境、その開放感のせいだろうか。大きな井戸も目に入った。
並びには、来迎寺があり、門前には桜の大木が枝を伸ばす。境内はちょうど川に向かって開かれた崖の上で、まわりをケヤキ、椿、モミジの大木が取り囲み、裏手では竹が風に揺れる。初春の陽射しを受けて、南斜面の樹木たちは、いまかいまかと芽吹きに備えているように見えた。明らかに茅葺きを葺き替えたと思われるトタン屋根の古いお堂の前では、梅の花が満開だった。
現在の牛越橋