■竜の口の海の化石~竜の口層~

約600万年前頃から奥羽山脈の火山列の東側に海が入り込んできました。この海の海底に堆積した地層が竜の口層とよばれる海成層です。代表的な年代は約500万年前で、竜ノ口渓谷で最もよく観察されるので、その名をとって竜の口層と名付けられています(地層名になっている地名の場所を模式地といいます)。竜の口の海は、仙台市街地はもちろんのこと、北は岩手県花巻市付近まで内湾状に広がっていました。この海には寒流が流れ込んでいたようです。このことは、竜の口層の化石に北方系の貝類が多いことから裏付けられています。今の青葉山付近は海岸線にあたり、そこから市街地にかけては沿岸の浅い砂地であったようで、センダイヌノメハマグリなどのハマグリの仲間やアサリの仲間、タカハシホタテとよぶ大型のホタテガイなどの化石を産出します。クジラやイルカ、サメやエイなどの化石も見つかっています。また、三滝や権現森、蕃山のふもとは海岸沿いの岩山や岩礁となっていたようで、郷六付近では、カキ礁や岩礁にすむ巻貝類の化石もよくみられます。

市街地付近の広瀬川沿いでの有名な化石産地は、竜ノ口渓谷と澱橋付近でしょう。竜ノ口渓谷の上流部では、1988年にミズホクジラの頭骨が発見されました。このクジラは絶滅したケトテリウム科の最後のグループとされるもので、その産状のレプリカが仙台市科学館に展示されています。澱橋付近では、1984年にアシカ類の幼体のほぼ全身の骨が発見されました。2012年9月にも、市民から新しくアシカ類とみられる脊椎動物の化石発見の情報が寄せられ、仙台市科学館ではこの化石を調査採集しました。詳しい鑑定作業等はこれからになりますが、この脊椎動物化石が何であるかは今後の研究に期待することとなります。なお、竜の口層の絶好の化石採集場所としては住吉台団地の西方の焼河原が有名です。

センダイヌノメハマグリの化石
タカハシホタテの化石
カキ礁の化石を掘る(郷六付近)
「竜の口の海」時代の仙台付近 (地学団体研究会仙台支部「仙台地学ハイキング」より)

■亜炭と化石林~向山層~

竜の口の海はやがて退きはじめ、海のひいたあとの平野がひらけ、低湿地、潟湖、三角州、氾濫原などが組み合わされた地形ができました。この時代に堆積してできた地層が向山層とよばれる陸成層です。この時代の低地には、セコイヤやメタセコイヤなどの巨木がそびえ立ち、ブナやコナラの仲間も繁っていました。低湿地にはスイショウやハンノキ、ヤナギなどが生えており、流木もたまっていました。これらの植物の遺体が集まって向山層の中に何枚かみられる亜炭層ができました。長い間、仙台ではこの亜炭は燃料として採掘されてきました。また、仙台名産の埋もれ木細工の原料はこの亜炭層の樹幹化石です。

さて、低地に広がっていたセコイヤ類の巨木の森林ですが、約400万年前に大火砕流によってなぎ倒されたことがわかっています。この大火砕流のあとが、向山層の中にはさまれている厚さ7mほどの広瀬川凝灰岩部層です。この大火砕流を引き起こした火山は今の七ツ森周辺にあったと考えられています。この大火砕流によってなぎ倒されて根元だけが化石として残った化石林が霊屋橋付近にみられます。霊屋橋の下流約150mの左岸に、直径約140cmもある樹木の化石があります。その年輪から樹齢800年の巨木であったとみられています。この周辺にも同様の樹木化石が散らばっており、まとめて「霊屋下セコイヤ類化石林」として仙台指定天然記念物に指定されています。

埋もれ木(硅化木=木の化石)
セコイヤ類化石林のなかの1本の化石木(霊屋橋付近)

■おわりに

紹介した各地層は、広瀬川から離れたところにも広く分布しています。また、ここで紹介していない地層にも仙台の化石を語るうえで欠かせない地層が多くあります。仙台市科学館には化石を含めて仙台の地質に関する様々な標本が展示されていますので、ぜひご覧になって下さい。また、青葉区の片平市民センターにも広瀬川の自然についての展示コーナーがあり、化石の標本も展示されています。こちらも立ち寄ってみるとよいでしょう。