■サケの回帰

2011年11月、シロサケは母なる広瀬川に戻ってきました。アユの産卵場の調査のときに撮影したものです。汽水域を勢いよく泳いでいました。写真5は郡山堰の下の瀬で撮影したものです。水深わずか30cmくらいの場所、尾鰭を使い、川底の砂を掘り、産卵場を作っているところでした。産卵を終えたサケは死んでしまいますが、これは、川の微生物によって分解され、栄養塩となり、藻類や河畔の植物などに利用されます。サケの回帰は身近な場所での自然観察の絶好の機会になると思います。

写真5  産卵場所をつくっているシロサケ(2011年11月11日 郡山堰下)

さて、広瀬川や汽水域、内湾域など水圏の生態調査から見えてきたことは、生物と環境は一体のものであり、切り離せないものであるということです。私たちは、自然から隔離された快適な空間を作ることができるようになり、自然のしくみのなかで支えられ生きているという認識が希薄になりました。しかし植物が産生する酸素無しでは生きられません。食料もすべて生物です。ヒトは生きるためのエネルギーを様々な生物の生命活動に依存しているのです。

■生命をつなぎつづけている自然のシステム・生態系

「ヒトは自然とどのように関わるべきなのか、もう一度問い直す必要がある」。震災後の広瀬川で、アユのほか、サクラマス、ヤマメ、ヨシノボリ、ウグイ、オイカワ、ボラなど様々な生物の生活に出会うたびに、その思いは強くなりました。震災後、復旧・復興に向けて、あらゆる方面での努力が続けられ、それぞれの立場で皆が真剣に考えています。シンポジウム、講演会、復興関連の書物など、多くの情報であふれています。しかし何か大切なものが見落とされているような気がしてなりません。それは私たちが人間社会(人間圏)のことばかりに気を取られていることです。人間の都合だけが最優先で判断されていないでしょうか。

現代社会が抱えているエネルギー・環境・食糧問題などすべて、「ヒトと自然の関わりあい方」の問題といっていいでしょう。科学の進歩は自然に対する巨大介入を可能にしました。自然を制圧・コントロールできるという錯覚に陥ることはないでしょうか。自然に触れる機会が極端に少なくなっている昨今、生物社会のことに目を向けることは難しいかもしれません。

仙台には「杜の都」の歴史があります。自然に学び、自然を活かし、自然を大切にする文化があります。地域の自然の力を活かした街づくり。まず自然を、生物社会のことを知ることが第一歩です。自然環境は生物たちの働きによりつくられています。生態系は多様な生物活動で結びつき、命をつなぎ続けている自然のシステムということができます。広瀬川では四季折々の自然の声を聞くことができます。また、漁業や農業を通して、生物とヒト、ヒトと環境との関わりあいの重要性を感じることができます。真の復興とは、自然と調和した豊かな社会のために必要なこと、大切にしたいことを考え、後世へ引き継ぐための指針を作ることではないでしょうか。ひとりひとりの考え・生き方が鍵を握っています。身近にある広瀬川の自然のしくみを教材として、「ヒトと自然との関わりあい方」について、問い、考える機会をつくっていきましょう。


写真・情報提供:東北大学 水産資源生態学研究室(庄子充広・片山亜優・静 一徳)
研究協力:宮城県内水面試験場・広瀬名取川漁業協同組合・広瀬川市民会議