3:景観保全の「指標」創りの試み

広瀬川の景観保全に必要な分析項目として「可視領域分析」と「色彩分析」を行っていますが、ここでは「可視領域分析」手法の流れについて、「大橋からの景観定点観測」を事例として話を進めます。先ず景観を構成している建物などいろいろな地物の位置情報の基盤となる地形図には、数値化した仙台市都市計画図(縮尺1/2500)を用います。

次に撮影された全周囲画像をコンピュータに取り込み、春夏秋冬それぞれに全周囲画像を1枚のパノラマ状に繋ぎあわせた画像を作成し、確定した磁北位置を0度として左から右へ5度間隔に72本の線を画像枠に目盛ります。そして数値地形図上の大橋の景観観測点を中心に半径1kmの全円を描き、その中心点から全周囲画像枠の目盛と同様に5度間隔の視通線を磁北位置から右回りに放射状に描いて、直径2kmのレーダーチャートを作ります。

全周囲画像と数値地形図を見比べながら、72本の視通線と全周囲画像のスカイライン(山稜や建物などが空を背景として描く輪郭線)までの水平距離を求め、視通線ごとの百分率(%)を計算します。例えば右回り5度の視通線と画像上の5度目盛り位置のスカイラインと交差している距離が500mであれば、(視通距離500m/レーダーチャート半径1000m)×100=50%と言うことになります。このように全周囲72本の視通線割合を求めて描いたものを「視通率レーダーチャート」と呼び、その平均値を大橋景観観測定点の視通率として保全する目安の1つの定量的値と考えました 。

大橋上流側歩道中央定点のパノラマ景観と保全の必要な青葉山丘陵の稜線範囲

しかし、景観観測点の視通率はスカイラインの保全に有効とは考えていますが、スカイラインより下にある建物等の改変については把握できない課題を残しています。そこで、視通線と同様に全周囲画像を上下に2等分する「水平な視準線」を採用して、視準線と交差する地物までの距離を求め百分率(%)を計算します。前者の視通線と似ていて紛らわしいのですが、全周囲72本の視準率を求めて描いたものを「視準率レーダーチャート」と呼び、地域の環境色彩と新たな建物等の色彩調和などを検討する場合(スカイラインより下になる地物を建物、その他の構築物、道路、裸地、樹木、草地、水面の7つに区分して、マンセルシステムで分析)に有用ではないかと考えています。

これまでの定点観測で得られている各橋での平均視通率と平均視準率は、牛越橋(通42%:準16%)、澱橋(通46%:準13%)、仲の瀬橋(通61%:準19%)、大橋(通48%:準13%)、評定河原橋(通46%:準17%)、霊屋橋(通24%:準9%)、愛宕大橋(通41%:準13%)、愛宕橋(通37%:準12%)、宮沢橋(通37%:準17%)となっています。ここに示しました全ての値は、全周囲画像を5度間隔で72分割した場合の分析値です。しかし、広瀬川の景観保全の指標化を進めるためには小規模な改変も把握できるように、「視通線・視準線」の分割を1度間隔そしてより詳細に30分間隔で描いたレーダーチャートを作成することが望ましいと考えて分析を継続しているところです。

4:おわりに

広瀬川が創りだした大切な景観をどのようにして次の世代へ伝えていくのか、試みとしてはじめた景観の定点観測は2006(平成18)年で10年目となりました。先に示しました各定点で時間を止めて分析した景観の「視通率」や「視準率」が1つの目安となって、年を経る毎に少しずつ変動していることに気がつきます。はじめにも述べましたが広瀬川と青葉山丘陵との関わりでは、最も大切で残しておきたい右岸側青葉山丘陵のスカイライン(稜線)の乱れが大変気になります。

せめて、市民の散策空間となっている堤防沿いや橋梁上を視点場とする青葉山丘陵のスカイライン(稜線)については、新たな建物や鉄塔などでこれ以上切断してしまうことの無いように、試みの指標「広瀬川方式」をひとつの検討素材として市民の目線で保全対策を早急に講じて欲しく思います。

大橋の視通率(緑色)と視準率(濃紺)のレーダーチャート