■ 動物たちの歴史と現在

広瀬川をさかのぼって上流部。支流沿いを走る林道や、山中に入ると、目の前を突然飛び出して横切る動物にしばしば出会います。それはテンであったり、ウサギであったりしますが、彼らは人間に気づけば身を硬くし、すぐに逃げていきます。

舗装道路のすぐわきまで降りてきて、人間の近くで見かけられることが増えたのは大型のカモシカとサルです。これら2種とツキノワグマ、イノシシを合わせた4種の中大型哺乳類は、昔は人里に現れることなどなかったといわれていますが、今では中山間地帯の里では裏山にしばしば現れます。

これは全国的な現象で、特にクマが山を降りてきて集落に出没する「里グマ」の現象は2004年に大きな話題になりました。また、西日本各地では昔から大きな問題だったニホンザルやイノシシによる農作物被害の問題も、東北地方に広がり、いまや仙台でも現実のものとなってしまいました。地域によってはサルやクマが人間を襲うなど、私たちがこれらの動物に対して抱いてきたイメージは変わりつつあります。
里グマが出没するのも、サルが集落から離れないのも、基本的な原因は同じです。

狩猟者が減った
第二次世界大戦後、狩猟者は激減し高齢化の一途をたどっています。野生動物はもともと人間に狩られ追われる存在であったため、人里を守る狩猟者の不在は、かつて人里を追われた動物たちの逆襲を招くことになりました。

犬の不在
狩猟者たちは訓練された猟犬を連れて歩きますが、かつては集落の中、どこにでも放し飼いの犬がいたものです。大型のけものたちも、犬に対しては一様に強い警戒心を示します。このことから欧米では野生動物との棲み分けに犬を用いることが多いのですが、日本では、集落を守る犬の姿は消えてしまいました。

里山文化の衰退と離農
農業者の減少や高齢化、炭焼きや養蚕からの撤退など、里山から人間は離れていきました。人間不在の、放棄された荒地は動物たちの棲みかとして自然に復元されつつあります。

ほかにも、イノシシの生息圏が全国的に北上していることなどは、気候の温暖化とも関連があるといわれています。

こうして人前に姿を現す動物たちが増えたことは、そのまま、自然が豊かになったことを意味するわけではありません。農作物の味を覚えたサルたちを、真の野生の姿に戻すことは極めて難しいものです。都市郊外の農業が脅かされる一方で、荒れた上流部の山中や街中では動物が減っていくという、不安定な変化が起きているとも言われます。いずれにせよ、動物たちが本来の姿でのびのびと生活できる要素は、人間社会の変化と呼応して少なくなっています。

広瀬川づたいに農耕地に姿を見せるニホンザルたち

野生動物はペットではありません。彼らは自然の中で生きるゆえに、常に新たな、より好ましい生息地を切り拓いていかねばなりません。翻って、人間もかつては同様の生活を送っていたはずです。人間と動物の関係は、ただ愛し、いたわる一方的な思いやりではなく、互いの敬意と張り詰めた緊張感をもって維持されてきました。そして、そうあるべきものなのです。