早春の川に集う人々

2003年12月1日

右岸、左岸、それぞれの風景

生瀬(おいせ)橋の西、川の左岸を細い旧道が西に向かって延びている。地図に主要地方道定義仙台線とある川の際のこの道を西へ走った。山の紅葉や果樹畑、田んぼに小さな祠……川の北岸にはおだやかな山間地の風景が連なるのに、川の南側には住宅やビルや工場が並ぶという対照的な景観が広がる。大沢橋のたもとには生コン工場が立地して川岸は白っぽく染まり、高層ビルも目立っていた。自然景観を保ち続けてきた川が少しずつ、でも気づいてみればずいぶんはっきりとその存在を弱められているように見える。

【小川橋上から】大勝草へ向かう途中、北から注ぎ込むのが芋沢川。そこにかかる小川橋の上から広瀬川を見ると、サギが1羽、休んでいた。

県道からそれて、大勝草という蛇行地点へと下りてみた。稲刈り後の乾いた田んぼのところどころに家が立つ。田んぼは郷六がそうだったように小さく角が丸い。圃場整備のすんだ平野部の水田を見慣れた目には、おだやかでなつかしい風景に感じられる。

【大勝草】農家の点在する大勝草。のどかな田園の風景が広がる。晩秋の低い陽射しで、草原に影が伸びる。

畑で働く男性がいたので声をかけたら、定年後に農家の畑を借りて耕している青葉区中山の小泉さんという方だった。畑には大根や白菜が育ち、モモやリンゴ,カキなどの果樹も植えられ、すみずみまでよく手が入れられている。「1反歩借りているんですよ。ここは土地がとても肥沃でね、何でもよく育つ。川が栄養分を運んできたんでしょ。適度に砂も混じって水はけもいいんです。ウグイス、メジロ……鳥のさえずりが聞ける春は最高ですよ」。おだやかな表情で小泉さんはこう話してくれた。

【大勝草からみる対岸】畑を抜け、川まで下りると対岸は団地。対照的な風景が広がる。

川に下りて行けると聞き歩きだしたら、後ろから「クマに気をつけて」と声をかけられたのには驚いたが、すぐに水のそばに出た。こちら側はのどかな畑の風景なのに、対岸はびっしりと住宅の立ち並ぶ愛子東4丁目だ。東へと回ると、夕日を受けた川岸の山が鮮やかな色に輝き、川岸も白い地層を見せて自然のままだ。けれども対岸の愛子東3丁目は、すでに護岸工事がされた後だった。自然と人工とがせめぎあう川岸。私にははるか昔からここを流れてきた広瀬川の小さな悲鳴が聞こえてくるように思える。

【護岸された岸】大勝草の段丘を洗うように流れていく広瀬川。夕日が川岸の畑を照らす。右手の団地の川岸には人工的なブロックが積まれていた。